父の言葉に長男はハッとしました。
『確かに自分は弟のような散財をしてはこなかったが、自分が弟と同じように酒と女に溺れ散財したかったかと言えば決してそうではない。代わりにスポーツカーを乗り回したり、あちこち海外旅行をして散財したかったかと聞かれれば、それも違う。』

 長男は父親の弟に対する甘さが、自分より弟の方を愛しているからに違いないと妬んでいた自分の気持ちに気付き、結局自分が欲しているものはお金ではなく父からの愛だったと解ったのです。
 振り返ってみれば、弟の長い浮浪者生活に比べれば、自分は生活の中にいつも幸せを実感していたことを思いました。
『考えてみれば、その生活に何の不満があっただろう、弟のことで気を揉むこと以外には何ら不安も心配も感じたことがなかった』と。

 一方、次男は幼い頃から

『家督を継ぐことのない自分は何をやっても兄を超えられることがなく、どんなに頑張っても父から一番に愛されることはない』
と卑屈な考えしかできていなかった自分に気付きました。
 
『大学に出してもらい、執筆活動資金を用立ててもらい、更に勘当したはずの自分の借金までをも完済してくれた父に、自分がどれほど愛されていたことか・・・』
 
と、東京の公園でさめざめと泣いたのです。あの時、ようやく父の愛に順位など無かったということが解ったのです。

 それから兄弟は和解し、力を合わせて牧場を守り、神様の祝福を受けてその地方でも有数の大規模農場へと成長していきました。
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