返済期限を1ヶ月過ぎ、2ヶ月過ぎ、次々と4つのサラ金から取り立て屋がアパートに押しかけるようになっていました。誰も助けてくれる者はなく、近所からも迷惑がられて次男は着の身着のまま夜逃げをしました。しかし、行く当てもありません。隣町で息を殺すようにしながら浮浪者として生活をするようになりました。

 半年が過ぎた頃、公園のベンチで寝ていると誰かに起こされました。数人の男達、それは取り立て屋でした。土下座をして、逃げたことを詫びましたが相手は容赦なく、血へどを吐くほどに殴る蹴るの暴行を受けました。そして、言われるままに父の住所を答えてしまっていました。借金は膨らんで既に1,000万円にもなっていたのです。次男は、虫息吐息で更に遠く離れた町へ逃げ、公園や飲食店の残飯をあさりながら浮浪者の生活を続けました。

 間もなく、次男から父親の住所を聞き出した取り立て屋達が牧場にやってきました。そして、父親に返済を要求しました。父親は借金のことよりもまず次男の安否と所在を尋ね、お金を払おうとしましたが、長男は父が借金を肩代わりすることに猛烈に反対しました。父親は


「これは、わたしの老後の資金だ。わたしの思うように使わせてくれ。」

と言い、反対を押し切ってすべての借金を返済しました。この時既に父親は体が弱っていて、長男に「弟を探し出して借金が完済したことを告げ、迎えてやって欲しい」と頼みましたが、長男は頑(かたく)なにそれを拒みました。

 ある日、次男がいつものように公園で残飯をあさっていると、一人の男が近寄ってきました。取り立て屋のうちの一人でした。次男は悲鳴を上げて逃げまどいましたが、男は言いました。


「もう、逃げなくてもいい。お前の借金はきれいさっぱり親父さんが払ってくれたんだ。お前さんもいい金づるがいて幸せだなぁ。あんなよぼよぼで死にかけの親父でも、金さえ返してくれりゃあそれでいいんだ。お得意様としていつでもお付き合いさせてもらうぜ。あはははは・・・・」

 
と、男は笑いながら去っていきました。男が去った後、次男は独り公園で大声で泣きました。そして、父に詫びたいと父の許に帰る決心をしたのです。
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